ゲームを海外に配信しようと考えている場合、専門のローカライズ会社にお願いするか、自社でローカライズスタッフを雇用して、社内でおこなう、という2つの選択肢があります。
大手パブリッシャーなら社内でローカライズの社員を抱えている会社は多く、こう言う悩みはなかったりすると思いますが、大抵のゲーム会社は多言語の社員を複数人数、抱えられないため、外の会社を使ったりします。
ただやはり担当スタッフによって、品質や情報の管理、素材の取り扱い、スケジュールの管理の都合で、『外に出すよりは社内でやりたい』と言う方もいます。また例えば『ソースコードの管理上、仕事を外に出せない』といった様々な事情で社内で行わなければならない、という場合もあります。
今回は、そのようなローカライズスタッフを雇用する際の見極め方をお伝えしようと思います。
1:選ぶ決め手は『母国の言語』ではなく経験値』 2:『日本オタク』では無く『プロ』を探す 3:入社前確認必須!『母国語テスト』と『3つのトライアル』 ・母国語テスト ・ゲーム用語トライアル ・ローカライズツールのトライアル ・翻訳トライアル 4:【おまけ】外注するなら個人では無く企業に依頼
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1:選ぶ決め手は『母国の言語』ではなく『経験値』
まず理解しないといけないことは、ローカライズ・翻訳というのは『職人業』であること。
例えば中国で生まれの方(中国人)は全員中国語ができます。かといって、『中国語ができる=中国語のローカライズができる』では無いと言うことを理解しなければなりません。
いまだに「この言語ができる=私はゲームの翻訳ができる」と平気で主張する人もいますが、それはあまりにもローカライズという職人業を舐めた考えだと思います。
それこそ『料理ができる=料理人、シェフとして店を経営していく』では全く違うように、「少しローカライズのバイトをしたことがあったので、ローカライズやれます」というのは通用しない話です。
ただ、はっきりと言えることが、現在日本国内で働いているほとんどのゲーム会社のローカライズ・翻訳スタッフはローカライズの訓練を受けたことはなく、ただただ『日本コンテンツのファン』なんです。
また別の例を出すと、日本に来る欧州人、欧米人の中で有名な話ですが、『日本に来たら英会話の先生の仕事がある』『手をあげたら誰でもなれる』という概念が昔からありました。
そんな中、今現在はその英会話の先生から脱出したい外国人たちが群がってきている仕事が『ローカライズ、翻訳の仕事』なのです。
いわゆる、ローカライズや翻訳の仕事は足を踏み入れるハードルが低いと認識されてしまっているのが現実です。
このような現状の中でも経験を積み、ゲームというメディアに対して知識を蓄積させ、ローカライズの専門家と言われるようになった人も存在します。が、基本的にはほとんどは専門家では無い、出来ない人の集まりです。
そういった意味で、1番のヒントはやはり『経験』なんです。
見極めるポイントは、どんなタイトルのローカライズを自分で担当したのか、というのがものすごく大事になってくると思います。いわゆる、「どこそこの大学に行って言語学を勉強しました」などは、何の価値もないという考えを持った上で、スタッフを見極めた方がいいと言えます。(外国語大学を出たからと行って、英語を使いこなせる日本人がほとんどいないのと同じように)。
つまりは『実績と経験値』が一番大切です。
さらに、その経験値が本当かどうかを調べる意味で、面接する外国人の履歴書に書いてある(または面接時)タイトルのプロデューサーに連絡をして確認をした方がいいです。なぜなら、外国人は履歴書を過剰に書いてしまう癖があるので、「私は〇〇のローカライズをやりました」と本人が言っても、例えば『一部の翻訳の確認をしただけだった』などのケースがザラにあるので、そこは注意して、裏をきちんと取ることは、重要です。
(裏を取る場合は、『確認をしても良いのか』と本人に伝えるようにしましょう)。
2:『日本オタク』では無く『プロ』を探す
多くのゲームパブリッシャーは、人員の確保をすでに在籍している外国人スタッフの人脈から紹介してもらうケースもあるかもしれませんが、私の経験からすると『友達の紹介などでは絶対雇用しない方がいい』と断言できます。
(もちろん、時にすごく能力のある人は紹介してもらう場合もありますが、その保証はどこにもありません)。
大概日本にいる外国人は、上記でも述べたように『日本オタク』で『日本ファン』なんです。これは少々極端な発言ではありますが、わざわざ来日するには相当な熱意が必要ですので、間違ってはない着眼点のはずです。
したがって、『仕事をすること』が第一目的で日本に来ているのでは無く、日本のコンテンツに対する憧れを感じてきている人の割合が圧倒的に多いため、そこはやはり『日本ファン』では無く、『プロ』を探すということを優先するべきだと思います。
これも基礎的な話ですが、面接で『御社の作品のファンです!』と、呪文のように言うのは、日本人ではなく、外国人です。まるで、ファンの度合いは雇用の判断の基準であるかのように。
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3:入社前確認必須!『母国語テスト』と『3つのトライアル』
トライアルというのは、入社前におこなう自社の試験のようなものです。これから述べるテストとトライアルは入社前に実施しましょう。
・母国語テスト
『日本語能力』と『母国語能力』のバランスを持ち合わせていることが非常に大切です。
日本語の能力は面接の段階で判断できますし、日本語のテストを受けさせる企業も多いと思いますが、さらに母国語のテストも受けさせる必要があります。
例えば、中国語の翻訳者であれば、中国語のテストを受けてもらう。
日本人でも、日本語ができるからと言って小説がかけたり文才が万人にあるわけでは無いように、外国人も英語、中国語、スペイン語が母国語だからと言って、その言語を全員が『取り扱う』ことが出来るわけではありません。
さらに、その回答を自社の中国人に確認させるのではなく、客観的な判断をしていただけるよう、『他社の』中国人に確認してもらうことがとても重要になってきます。
客観性を持ったフィードバックをしてもらう必要があります。そもそも、その自社にいる外国人に判断能力があるかどうかも不確定ですし。翻訳テストの確認などは他社に確認してもらったとしても1万円もかからないので、他社に行ってもらうことは、オススメです。
・ゲーム関連用語トライアル
『プロ』を探す際に上記で述べた「テスト」に加え、下記のことも確認しましょう。
トライアルの際、ゲーム用語に関するトライアル、ゲームプラットフォームの特有なフィーチャー(例えば任天堂ならロットチェック、そしてソニーならTRC)あたりのノウハウがあるかどうか、しっかり確認をした方がいい。ゲームローカラーズをやっていて、そこら辺の知識がないというならば、はっきり言ってゲームのローカライズの専門家ではないし、採用するべきではありません。
・ローカライズツールのトライアル
どのようなローカライズツールを使用できるか、さらに『どのツールを所有しているのか』も確認した方がいいです。
例えば、トラドス、MemoQ、ワードファストなどを使ったことがないのであれば、やはり用語の統一などに関しての意識が低い(または無い)、という意味をしています。
『どのようなツールを所有しているのか』を聞くべき理由は、みんな平気で「使ったことがある」と返事をするからです。ならば、ライセンス番号を共有していただきましょう。ツールは少なからず10万円〜は費用がかかってきます。ローカライズの専門家でツールを持っていない人はザラにいると思いますが、それはデザイナーで『アドビ』や『イラレ』を持っていない、と同じような話です。
ローカライズのプロなら、ツールは当たり前のように持つものです。
・翻訳トライアル
翻訳のスピードを測るために入社前(面接後などに)1日だけ会社にきてもらって、翻訳のトライアルを受けてもらいましょう。もちろんその日のお給料は払わないといけませんが、8時間トライアルとして仕事をしてもらって、その『8時間で4000〜5000文字の翻訳トライアルを辞書なしでこなせられるかどうか』を行ってもらう必要があります。
一般的に翻訳者が1日で処理できる文字数は、2500文字と言われています。これははっきり言ってただの迷信、もしくは一昔前の時代の話です。
一昔前、日本人は日本語→ドイツ語、日本語→フランス語などの翻訳をワープロでおこない、辞書も印刷物で調べないといけない時代に、論文などの翻訳において『平均2500文字』と言われていました。ですが、この現代、しかも論文などではないゲーム翻訳では1日5000文字おこなうことは常識です。
100万文字のRPGを翻訳するのに、スピードが無ければ割にもあいません。プログラマーと一緒で、翻訳には品質だけでは無く、スピードもとても大事になってきます。
それゆえ、翻訳トライアルも必須になってきます。
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4:【おまけ】外注する際は個人では無く企業に依頼
これら述べてきたものはすべて初歩的な話ですので、入社前のテストをする際に、具体的にどのような質問をしたらいいのか、何を見ればいいのか、などのさらに突っ込んだ話はまた次回の記事でお話しようと思います。
ちなみに、弊社は当然ながら専門家を社内に置いています。社内で絶対置いてはいけないとはいいませんが、普通のゲームパブリッシャーにとって多言語の人の能力を判断するのは難しく、あたり外れが多いです。
さらに、優秀なスタッフに出会えたとしても、外国人特有の問題もあります。例えば家族の事情で国に帰らなければならなかったり、タイミング悪い時に長期の休暇を申請したり、病気の際に日本で診断された薬は体に合わなかったり。
では、どうすればいいのだと聞かれると、私はこう思います。最終的に一番ベストなシナリオ(雇用の仕方)は、『優秀な編集担当だけ、つまりLQAの専門家だけを社内に置いて、あとの作業は外の会社を使う』ことだと思います。もちろん、これは私の個人的な意見だけですが。
外注をする場合、フリーランサーや個人の翻訳者では無く、会社に発注することがベストです。なぜなら、秘密情報の保持、作品のプライバシーを守るなど、など作業工程で何かしら問題が発生した場合のことを考えると、やはり企業間でのやりとりが必要になってくるので。
ちなみに、私も『外のベンダーに外注する派』です。
私自身、他のゲーム会社で働いていた際に、社内のスタッフを使ったり、また外の業者を使ったりと両方の利点と欠点をみてきました。結論言えることは、『どのローカライズベンダーを使うか』という選択を間違えさえしなければ、外を使った方が品質に対する担保がつくし、仕事は早いし、プロデューサーの手が取られなくても済むということ。
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